金融相場の予測手法
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はじめに

金融相場の予測手法には大きく分けて2つあります。一つは経済の動きや企業業績など、相場の外部から相場を動かすメカニズムを調べることによって相場の動きを分析するファンダメンタルズ分析、もう一つは相場の動きそのものによって相場の動きを分析するテクニカル分析です。最近ではコンピューターの発達にともない、大量の計算処理が手軽にできるようになったため、クウォンツ分析(計量分析・数理数量分析)と呼ばれる手法も広く使われるようになりました。クウォンツ分析もファンダメンタルズ分析とテクニカル分析とに分類することが可能ですが、ここでは便宜上、独立したものとして説明します。

ファンダメンタルズ分析

相場とギャンブルの大きな違いは、ギャンブルがまったくの確率の世界である一方で、相場は確率的な部分もあるものの、大きな動きは経済活動の結果として決まるということです。したがって、将来の経済の動きが予測できれば金融相場の動きも予測できることになります。問題は、経済の動きも決定論的に決まっているわけではなく、確実に予測することが難しいため、大まかな予測しかできないということです。

大まかに言って、景気が悪いときは企業の利潤率が低いため、金利は下がり、債券相場は上昇します。株価指数は一般に景気がいい時は上昇し、景気が悪くなると下落しますが、マクロで景気が悪くても個別企業で業績が伸びていればその会社の株価は上昇することがあります。為替は国際収支(経常収支+資本収支)に大きく左右されます。最近の日本経済に見られるような経常収支黒字は外貨売り・自国通貨買い、資本収支赤字は逆に外貨買い・自国通貨売り圧力になります。景気が悪くなれば輸入が減り、輸出ドライブがかかるため経常黒字が増え、また、国内金利低下によって内外金利差が拡大(外国金利の方が高い場合)するため、資本収支赤字が増える傾向があります。この二つの相反する要因のうちどちらが大きいかによって円高になったり円安になったりするので、一概に景気の良し悪しだけで為替相場の方向性が決まるわけではありません。

金融相場には長期的な経済成長よりも、中・短期的な景気循環が大きく影響するので、景気循環を引き起こす原因である経済の需要面(消費・設備投資・財政支出・海外景気変動による輸出増減など)の分析がファンダメンタルズ分析の中心となります。また最近では経済指標の発表を受けて金融相場が大きく動くことが多いため、経済指標そのものの予測も重要になってきています。

マクロ経済予測手法の変遷についてはDiebold (1998)(注1)に簡潔にまとめられています。

テクニカル分析

これは、過去の値動きから将来の値動きを予測する方法で、チャート分析とも呼ばれます。一日(あるいは一週間・一ヶ月等)の間の始値・高値・安値・終値を使ってロウソク足やバーチャートなどのチャートを作り、トレンドラインを引いたり、あるいは値動きのパターンから次の動きを予測したり、過去の高値・安値を元に次の転換点を予測したりします。

基本的に過去の経験則に基づく予測であるため、「なぜそうなるのか」という根拠に乏しいため、ファンダメンタルズ分析よりは説得力に欠けますが、市場参加者のコンセンサスによって自己実現的に「チャート通りに動く」という面もあり、結果的に「わりと当たることが多い」ため、広く使われています。

代表的な物としては日本古来の「酒田五法」、「一目均衡表」、アメリカで発達した「ダウ理論」、「エリオット波動」、「ギャン理論」、「ポイント・アンド・フィギュア」などがあります。(参考文献参照)

クウォンツ分析

コンピューターを使った分析で、上記2つが主観に左右される部分が大きいのに対し、クウォンツ分析は主観の入り込む余地が小さい(しかしまったくないわけではない)のが大きな特徴です。統計学・計量経済学(特に時系列分析)・簡単なプログラミングの知識が必要ですが、必要とされる数学のレベルは高校レベルを少し発展させた程度で、それほど数学的に高度なものではありません。

大きく分けて構造モデル(structural model)と非構造モデル(nonstructural model)とがあり、前者はファンダメンタルズ分析的に経済理論を元にした方程式(消費関数や生産関数など)を組み合わせた連立方程式モデル(いわゆるマクロ経済モデル)が代表的ですが、一般に当てはまりがあまり良くない(予測誤差が大きい)というのが短所です。後者はテクニカル分析と同じで、それ自身の過去の動きから今の動きを説明するもの(ARIMAモデルが代表的)で、なぜそうなるのかという理論的根拠は薄いものの、構造モデルに比べると当てはまりがよいという特徴があります。

最近の計量経済学では経済指標・金融相場の多くがunit root process(AR(1)モデルで係数が1の特殊なケース。いわゆるランダムウォーク)で説明できるという考え(注2)が広く支持されていますが、1期前のデータだけでなくより多くの情報を盛り込んだ複雑なモデルを使うことによってランダムウォークよりも正確な(予測誤差の小さい)予測ができるはずだという考えから、非線型モデル・ニューラルネットワークなどを使った予測法の研究も盛んです。

ここ数年、カオス理論や複雑系が注目を浴びているようですが、少なくとも今のところ(1998年8月時点)では金融相場予測に利用できる段階には程遠いようです。金融相場がカオスであると主張する人もいますが(注3)、カオスと非カオスの非線型プロセスを効果的に判別する手法もまだ確立されておらず(注4)、まだコンセンサスもできていない状況です。(計量経済学・ニューラルネットワーク・カオスについては参考文献参照)

その他

太陽黒点・占星術などを使った相場予測もありますが、上に述べた3つの手法に比べると「説得力に欠ける」「予測精度が悪い」という欠点があり、マイナーです。

まとめ

予測者がどの手法を使うかによって「ファンダメンタリスト」「チャーティスト(テクニシャン)」「クウォンツ」などと呼ばれることがありますが、いずれの手法を用いても正確に予測することは不可能であり、より予測精度を高めるためには使える物はすべて使って総合的に判断することが必要です。

(注1)Diebold, "The Past, Present, and Future of Macroeconomic Forecasting." Journal of Economic Perspectives, 1998, 12. 175-192.
(注2)Nelson and Plosser, "Trends and Random Walks in Macroeconomic Time Series: Some Evidence and Implications." Journal of Monetary Economics 10 (1982) 130-162.
(注3)Peters (1996)
(注4)Barnett et al., "A single-blind controlled competition among tests for nonlinearity and chaos." Journal of Econometrics 82 (1997) 157-192.

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